気がつくとそこはさっきの建造物の中だった。体中が恐怖と緊張で硬直しているのを感じた。苦笑しつつ悪夢を頭のなかから追い出す。だがあの静かな音は、頭の奥にこびりついてなかなか離れていこうとしなかった。
「……ざ……ざざ………ざ………ざ……」
違う！
そう気付いたとたん、音のするほうに向かって駆けだしていた。
静かな、砂のこぼれるような音に混じって、ほんのかすかに響いているもうひとつの音があったのだ。
「……ざ…が…どう…か…ざ…き…こ………ざざ…ざ……」
人の声だ！
「……て…ほ…しい…ざ……コ…ルド…ざ…リ…プ……ざ…とき…は…」
声は、小さくなったりかすれたりしながらも、止むことなく語り続けていた。
「……多くの…ざ…が……ざ……て…行っ…た…ざ……もう…ざ………」
それは呼びかけのようでもあり、独白のようでもあった。
「……この……ざ…聞くも…ざざ…は…ざ……も…いな…ざざ…ざ……れでも…は……」
建造物の内部は、狭い通路が複雑に絡み合い、小さな部屋同士をつないでいた。
「…達が……この…ざ…に…わせ…罪……ざ…ざ…け…ざ…ならな…」
同じような光景がどこまでも続き、何度も迷いそうになった。だが声は途切れず話し続けている。今度こそは。そう今度こそは！
「…ざ…再生の…ざ…託し…達は、それを作り……だが…れは…」
その扉は、他のものより頑丈だった。耳を押し当ててみる。
「…私はただ…ざ…自…ざ…犯した…ざ…を…それに…償わせ…うと…ざざ…」
確かにこの扉の向こうからだ！渾身の力を込めて扉を押す。腕が、足が重みに軋んだ。
「…ざ……それこそ…ざ…が私達…の………ざざ……罪……ざざ……。」
大きな音をたて、どうにか扉は開いた。

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