タイトル：忍者見習と麻

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「なにをぼんやりしている。――これを見ろ」
「麻の実でしょう」
「そうだ、おれがいま蒔いた麻の実がとべるか」
「また、からかうんですか」
「だまれ。おまえは武芸に達したいといったろうが。
きょうから武芸の第一歩に入門するのだ。とんでみろ」
　　　　　　　　　　　　　　　吉川英治『天兵童子』

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見習：（独白）忍者の修行をすることにした。

教官：はいコレ。

見習：……。

教官：麻の実ね。
　　　蒔いたらすぐ発芽するから。
　　　飛び越える訓練ね。

見習：……。
（麻の実を蒔き、水をやる。）
（にゅっと麻が生えてくる。）
（飛び越える訓練を始める見習。）

（麻はどんどん伸びてゆく）
見習：@@;……。

（へろへろになりながら果敢に訓練を続ける見習）
（だんだん周囲が暗くなってくる）

教官：おらがんばれー。
　　　今夜は徹夜だぞー。

見習：@@;……。

（へろへろになりながらさらに果敢に訓練を続ける見習）

見習：！

（足を滑らせ落下する見習）

見習：（独白）そのままどれだけ気を失っていたのかわからない。

見習：…。（目を開く）

見習：！！

（昼になっている。天高く伸びている麻の巨大な草木たち。
仲間たちは上の方で修行しているようで、ゴマ粒のように見えている。）

見習：！（ジャンプする。…とうていゴマ粒になった仲間たちにはとどかない。）

見習：…。
（しばらく上を見上げている見習。
やがて困ったようにとぼとぼと歩き出す。）

＊　　　＊　　　　＊

（とぼとぼと歩き続ける見習。
周りのあちこちから麻の巨大な草木が天に伸びている）

老人：おいそこのお前！

見習：？

老人：そうお前だよ！

見習：…。

老人：手伝え。

見習：？

老人：ここのところ畑にちっとも日が当たらん。
　　　この麻の化け物のせいだ。
　　　こいつを切り倒す。

見習：…。

老人：（鼻を鳴らす）
　　　使えん奴だな。

老人：（斧を持って麻の草木に斬りかかる）せぇの！

見習：！

（斧が麻の幹に食い込もうとした瞬間、上空から忍者が二人降って来る。
忍者たちは老人を羽交い絞めにしてそのまま跳び上がり去る。）

見習：…。

（あとには斧だけが残されている）

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（さらにとぼとぼ歩き続ける見習。
麻の草木は鬱蒼と茂り、森のようになっている）

（まばらな人影が歩いていく）

下級忍者Ａ：はい、並んで並んで〜。
　　　　　3交代、食事と休憩つきね〜。

（行列に加わる見習。）

下級忍者Ａ：はいこれ。（スコップと荷車を渡す）
　　　　　作業場あっちね。

（大勢に混じって砂利を運ぶ見習。）

＊　　　＊　　　＊

（食堂。）

作業員Ａ：（食事をとりながら）これ、何の工事なんすか？

作業員Ｂ：麻が枯れないように水路を引くんだとさ。

作業員Ａ：ええ？でも谷の方まで引いてますよね。
　　　　　雨期になったらやばくないすか？

作業員Ｂ：さあな。

見習：……。

（食事が終わっても座ったまま考え込んでいる見習）

下級忍者Ｂ：（電気を消しながら）はいはい、食堂はしまいだよ。
　　　　　　休憩所あっちね。

見習：…。

（とぼとぼと歩く見習。）

（上から何かが落ちてくる）

見習：！

（あの時の教官がぼろぼろになって倒れている。）

教官：（目を開く。）…。おや、お前さんはあの時の…。
　　　元気にしてたか。

見習；（うなずく）

教官：そうか。そりゃよかった。

教官：麻はどんどん高くなって行っている。もうずいぶん広がったぞ。
　　　いずれ宇宙を埋め尽くすだろう…。

見習：（何か言いかける）

教官：少し眠らせてくれ。ずっと寝てないんだ。

（目を閉じる教官）

見習：…。

（倒れている教官を見つめる見習）

（麻の草木は惑星を埋めつくし、宇宙に向かって広がっていく。）

ＥＮＤ