（丘のふもと、死骸をみつける涼。）

涼：（独白）まだ新しい…。死んでから
　　５年も経ってはいないはずだ…。

涼：！

（丘を登っていく涼。
頂上にたどり着く。目を見張る涼。）

（丘の向こうにある崩れかけたドームを中心とした市街地の廃墟、
そこに向かって放射状に広がる死骸）

（タイトル：希望の街）

（丘を下っていく涼。
損傷の激しい古い死体が、比較的新しい旅行装備を整えた死体が、
そこここに転がっている。）

（ゆっくりドームに向かって歩いていく涼。）

涼：？

（ドームの近くに建てられた小さな墓に気付く。）
（墓碑銘を読もうとしゃがみこむ。）

声：さわるな！

涼：！
（振り向く涼。
奇妙な服を着た少年が立っている。）

涼：あんたは…！

少年：ここで何をしている！

涼：…。
　　ずっと探していたんだ。
　　生きている人間を。

少年：どこから来た。

涼：ずっと…。（指差す。）

少年：いい加減なことを言うな！
　　　そんな軽装で
　　　東の砂漠が越えられるものか！

涼：東の…？
　　西の方には
　　他にもまだ生きている
　　人間がいるのか？

少年：ッの！
　　　とぼけんな！
（殴りかかる少年。拳を片手で受け止める涼。）

（明らかに驚いたような顔をする少年、が、
その場で腕から衝撃波を放つ少年。
涼、それをまともに食らい、意識を失う。）

　　　　＊　　　　＊　　　　＊

（どこかの部屋の中。
鉄格子の嵌まった窓、鍵のかかった扉、
涼の腕は鎖に繋がれている。）

（どこからか風が吹きこんできている。）

（ゆっくりと目を覚ます涼。
興味深げに両腕の鎖を見つめる。）


（やがて空が暗くなる。）

（扉が開く。）
少年：もう気付いてたのか。

涼：………。
　　
少年：（カタンと食事の入ったトレイを置く。）

涼：…これ、外してくれないかな。
（鎖を振る）

少年：あれだけ大暴れしといてよく言うな。

涼：？

少年：！
　　　憶えてないのか。

涼：…。
　　分かった。
　　すまなかった。

少年：（壁際のレバーを引く。鎖ははずれはしないが緩む。）

（少年を見つめる涼。
　さじを取り、食事を始める。）

（少し驚いたような表情をする少年）

涼：？

少年：普通に食べられるんだなぁ。

涼：………。

　　　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

（コンソールの前に座って端末を叩く少年。）
（じっとスクリーンを見つめる。）

　　　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

（食事を涼に与える少年。）

涼：他に生き残っている人は？

少年：………。

（少年を見る涼。）

涼：新しい死体だった。

少年：？

涼：この街に
　　転がっている死体…。

少年：………。

少年：いくらでもあるさ。
　　　ここは希望の街だからな。

涼：？

少年：昔々、やがてこの星は干上がって人が住めなくなると分かった時、
　　　新しい星を探して旅立った奴らがいた。
　　　どこかに第二の故郷を見付けてきっと迎えに来る。
　　　奴らはそう約束した。俺達の祖先はそれを信じて
　　　悪化していく惑星環境にも耐えられる頑丈なドームをここに建設し、
　　　いつの日か奴らが帰ってくるのを待つことにした。
　　　長い長い歳月、俺達は待ち続けた。
　　　いつしかドームは古び、食料製造機がおそらくはもう長くは
　　　持たないと分かった頃に―それを修理する技術なんてとっくに失われていた―
　　　誰かが都市の最下層の遺跡から人工肢体を９つ、掘り当てた。
　　　もしもそいつが使えるのなら、人間の一生分ぐらいの時間は
　　　食事をしないでも生きられる。
　　　だが、なんせ「昔の機械」だ。
　　　妹の一生分の食い扶持の保証を条件に俺が手術の人体実験に志願した。

　　（袖をまくってみせる少年）
　　（見つめる涼。）

少年：実験は成功して、そして
　　　あっという間に残りの８つをめぐって争いが起きた。
　　　（空ろな笑いを浮かべて肩をすくめる。）

涼：…殺したの？

少年：あんたは殺さなかったのか。

涼：！

少年：そのあんたの躯の中のそれだよ…。

涼：………。

少年：俺を手術した男が、東から来たと言っていた。
　　　そいつが色々話してくれたよ。
　　　半信半疑で聞いていたんだけどな。

涼：………。
　（さじを置く涼。）

少年：もういいのか。

（うなずく涼）
（レバーを引き上げる少年。）

少年：別にあんたの罪って訳じゃないだろ。

（部屋を出ていく少年。扉が閉まり、鍵がかけられる。）
（静かに溜息をつき、ゆっくりと目を閉じる涼。）

　　　＊　　　　＊　　　　　＊

（夜半、コンソールの前に座って端末を叩く少年。）
（じっとスクリーンを見つめる。）

　　　＊　　　　＊　　　　　＊

（夜半過ぎ。食事を持ってくる少年。）

涼：…残りの人工肢体はどうなったの？

少年：（間）
　　　もうここには無いよ。

涼：ここに無い？　

少年：……。

（瞬間、灯りが消える）

少年：（独白）発電機が！

少年：くそ！
　　　よりによって…！

涼：！？

少年：いいか？
　　　逃げるなよ！
　　　絶対だぞ！

（レバーを引きドアを閉め走っていく少年。）
（不審そうな表情でドアを見つめる涼。）

　　　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

（必死で発電機を修理する少年。）
（スイッチを入れる。
何の反応も無い。）

少年：畜生…！

（ふと、自分の胸に手を当てる少年）

少年：………。

　　　　　＊　　　　　＊　　　　　　＊

（涼が閉じ込められている部屋。
一瞬灯りがつきそして消える。）

涼：？

（胸騒ぎを感じる涼。）

　　　　＊　　　　　　＊　　　　　　＊

（朝が来ている。）
（ドアを見つめる涼。
イメージ：管に繋がれている少年。
　　　　　ゆっくりと意識が小さくなっていく。）

涼：！

涼：おーい。おおーい！！

（返事はない。）

涼：おーい！おーい！！

（やはり返事はない。）

涼：………。

（ドアと鎖を交互に見つめる涼。）
（意を決し、腕に意識を集中する涼。）

涼：ぐ…。

（腕から醜い枝状のモノがぎしぎしと音を立てて
生えて来る。血が滴り床に落ちる。）
（枝状のモノがゆっくりと鎖を侵食していく。）
（がちんと音をたてて鎖が割れる。）

涼：う…！

（床に転がる涼。）
（げふげふと咳をして血を吐く。）

涼：はぁ。はぁ。

　　　　　＊　　　＊　　　　＊

（がぁんと扉を蹴破る涼。）

涼：おーい！おーい！！

（叫びながらあちこちを探す涼。）

涼：！

（コンソールの前に少年が倒れている。
胸が開き、そこから伸びたコードがコンソールに繋がっている。）

涼：（独白）人工肢体の動力をコンソールに…！

涼：何て事を！

（コードを外そうとする涼）
（その手を押さえる少年）

少年：外すな！

少年：ちゃんと誘導してやらないといけないんだ…。

涼：！？

（空を指差す少年。
見上げる涼。）

（空から船が降りてくる。）

涼：！

少年：妹を連れて行ってやってくれよ。
　　　お願いだ。

涼：妹？

少年：墓の中に…。
　　　（息絶える少年。）

涼：………。

（墓の小物入れを開く涼。）

涼：（独白）これは…。

（着陸する船。）

　　　　＊　　　　＊　　　　＊

（船のハッチが開く。
何人かの船員達が降りてくる。）

（涼をみつけ、話しかける船員。）

船員:　$%&& %$ ' #'& %(%$( ？

（涼、ゆっくりと意識を絞り、船員の精神に焦点を合わせる。）

船員:君が、我々を呼んだのか？

涼：呼んでいたのは彼だよ…。

　　　　＊　　　　＊　　　　＊

（墓の前で祈る一同。）

船員:ずっと新しい星を探していた。
　　　だがどこにも見つからない…。

船員：仲間の中に故郷に戻ろうと言い出すものが現れた。
　　　　そんなとき…。

（しばらく押し黙る船員）

船員：（少し笑う）故郷がこんな風になっているとはなあ！

（船員をみつめる涼。手にしたものを差し出す。）

船員:これは…！
　　　種籾じゃないか！
　　　いったい…！
　　　
涼：彼の、妹の形見なんだ。
　　新しい故郷を見つけたら、
　　そこに蒔いてほしい。

船員:わかった。

船員:だが
　　君はどうするんだ！？

涼：もう少し、この星に誰かいないか探してみようと思う。

船員:だがここ以外から通信に応答はなかったぞ！

涼：そうだね。
　　（微笑む。）

船員：………。

　　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

船員:異常熱源と光源の地図だ。
　　　あんまり当てになるもんじゃないがな。
　　　持って行くといい。

涼：ありがとう。

船員たち:（手を振る。）

（ハッチが閉まる。
音を立てて船が飛び立つ。）

（見上げる涼。）

（船はぐんぐん小さくなっていく。）

END