嵐の夜に -A.D.6899-

ひどい嵐だった。
もちろんこの惑星では雨は降らないから、厳密には『大風』というのが正しいのかも知れない。――それにそう、この惑星では強い風がたえまなく吹いているのだ。
それでも、吹き上げられた石飛礫がこんな勢いで飛んでくるのはいつものことではない。どこか、崩れ残った建造物の遺跡にでも避難するのが賢明というものだろう。
だが、前の遺跡群を抜けてから、もう十日近くも岩砂漠以外のものは何も見ていない。

突風がまた来るのを感じて、身をすくめる。そのとたん、目の前を、握り拳ほどもある石が吹き飛んで行った。
「！」
それは石ではなかった。装甲板のようなものと、それにこびりついたパイプの破片。おそらくは人造物の残骸だった。もし今のが見間違いでなければ、風上に向かえば避難できそうな遺跡があるかも知れない。

それからどれほど歩き続けたのかは分からない。『嵐』はいっこうに弱まる気配を見せなかった。少しずつ辺りが前より暗くなってくる。夜がもう近いのだ。
その時、風がわずかに乱れるのを感じた。建造物はきっと近くにある！
見上げると、舞い上がった砂塵の向こうに黒い幽かな影が見えた。

---

NEXT>